
2026年初頭から噂のあったシマノのペダルのモデルチェンジ。春のクラシックレースでフィリプセンがパンクしたマチューにバイクを差し出したところ、ペダルにクリートがステップインできなかった事から、新しいペダルはSPD-SLと互換がない事が明るみになった。ペダルのマイナーチェンジはあったものの、根本の構造は変えてこなかったSPD-SLとの互換を失ってまでシマノが目指したものは何か?という事を体感するために新型ペダルPD-R9300、使ってみたレポートを余談多めで語っていきたいと思います(笑)
シューズとペダルが固定されるビンディングの構造は通称SPDと呼ばれるが、もとはと言えば「シマノ ペダリング ダイナミクス」の略称で、ロード向けビンディングについてはSPD-SLと呼ばれますが、こちらは「シマノ ペダリング ダイナミクス スーパーライト」らしいです。そして、今回の新型ペダルPD-R9300、PD-R8200のシステムはSPD-SLRと名称が変わりました。Rとは何だろうかと検索しても見当たる記載がありません。レボリューションは無いと思うのでREFINEとかかな。

そもそもシマノのロードバイク向けペダルとしては、LOOKパテントのシマノペダルがあり、時のツールドフランスチャンピオン、ランス・アームストロング(7連覇するも後にドーピングスキャンダルではく奪)が愛用していました。シマノとしてはオフロードに続いてリリースしたSPD-Rというシステムがあったにもかかわらず、変わらずランスはLOOKパテントのペダルを使い続ける。こまったチームは中古品を含めて状態の良い販売終了したペダルをかき集めたとか。こんな状態ではいかんだろうとランスペダルとして開発を進めた結果がSPD-SLなわけです。ランスもシマノは良いものを作ってくれたとコメントしていた気がしますが、スタックハイトの低さが気に入らなかったようで、確かクリートとシューズの間にスペーサーを履かせた下駄のような状態で使用していたそうです。そして、ついに日の目を見る事が無かったSPD-Rは2004年にクリートの固定に問題があると事でリコールになって忘れられていきました。

20年以上にわたってロードバイクようビンディングペダルの代名詞にもなったSPD-SLの新型SPD-SLRですが、ざっくりいうと軽くてスタックハイトが低くなった新型クリートが特徴です。スタックハイトが果たして高いと低いのどちらがいいのか、という問題はQファクターが広いor狭いと同じく正解が無さそうで、先に挙げたランス・アームストロングもスペーサーを使用して調整するくらいスタックハイトが低い事は好まなかったようです。


薄くなりました。軽くなりました。左右には調整できますが、クリート単体で前後位置は変えれません!

SPD-SLは固定ボルトとクリートの間にワッシャーを挟んでいたので、それもなくなってボルトも少し短くなりました。Yes軽量化。
スタックハイトが低いとダイレクト感が増し、トルクを掛けやすい、逆にスタックハイトを高くするとペダルを回しやすいと一般的に言われます。ランス・アームストロングはツールドフランスの山岳ステージで違和感を覚えるほどの高ケイデンスでライバルを置き去りにする姿が印象的でした。スタックハイトが高い、ケイデンスを維持しやすいセッティングを好んだのはこの理由ではと思われます。
で、さっそくインストールしてみた


ペダル本体はプラットフォームの形状が少し変わったくらいで、基本的な構造はほぼ同じ。クリートは薄くなったことでスタックハイトが低く、シマノ曰く2.3mm低くなったそうだ。今までボルトとクリートの間に挟んでいたワッシャーもなくなって軽くなった代わりに、前後方向への位置調整はシューズ側のプレートにのみ依存するようになった。幸い自分のシューズ(LAKE CX402)は1㎝程の調整しろがあり、踵よりにギリギリ寄せると元のクリートと同じ位置に取り付ける事ができた。プレートが固定されているシューズや前後に極端にオフセットさせたセッティングのライダーは好みの位置にSPD-SLRクリートを取り付ける事ができない。(アンバウンド店頭では確認のためのクリートも用意しているのでご相談ください)
で、使ってみたところ
SPD-SLはTIME、LOOK、SPEEDPLAYも併用しつつ、発売当初から20年以上使っている。今でもPD-7900とPD-R9100は現役で使用中だ。というガチガチのSPD-SL慣れしている自分からすると、ステップイン→ペダリングは違和感なし。違和感がない事が良いのか悪いのか分からないが、はっきり言って新商品の気持ちよさ以外には何の感動もない。で、肝心のウリであるスタックハイトの低さ。これが大事。通勤、いつものトレーニングコースで合計200kmほど走った結果、レース/トレーニング用のペダルはSPD-SLRにしようと思った。例えばこんな状況が思い浮かぶでしょうか?緩斜面を走行していて、ギアを1段下げるかそのままトルクを掛けてペダルを回し続けるか、頂上までの距離が短ければダンシングで一気に走り切るかもしれない、ギアを下げるとペダルを回しきれなくなってスピードが落ちるかも、その時にトルクを掛ける判断をしてアンクリングが起きてペダリングが乱れる。これはトレーニング中に自分が陥る事もあるし、一緒に練習している仲間でもよく見る光景だ。僅か2mmちょいの違いであるが、明らかにトルクを掛けた時の踵の安定感が上がっている。シッティングでトルクを掛ける時には有利に働くかなと。あと、パワーメーターの数字によるとトルク効率も上がっているようだ。
で、SPD-SLRは”買い”なのか?
と言われると気になる点はいくつもある。そもそもスタックハイトの低さの是非が問題で、実際に自分でもケイデンスが少し下がっている事を実感している。筋力や心肺のバランスを考えて今と同じケイデンスを維持したい、SPD-SL特にシマノのペダルは軸のメンテナンスも容易で、現状のペダルで問題がない場合において買い替える意味はないだろう。あと、クリート位置。クリートの前後位置調整に頼ってセッティングしている方はシューズも替える必要がある。シマノのシューズは前後位置の調整幅を大きく設けているが、フィットする型のシューズがあるかどうか…というところでシマノはダイナラスト2.0という新しい足型を採用、特につま先のボリュームまで拘っているので履きやすく感じる方も多くなるだろう。このタイミングでこれを出すとはよく考えた商売だぜ。と言いたくなるが、シマノのロード系のハイグレードのシューズはミッドソールがない構造でそもそも他のブランドに比べてペダル軸~足裏までの距離、スタックハイトが低くなるように設計されている。これにSPD-SLRの効果まで合わせると流石に低すぎて違和感があるのでは?と気になるところである。どうしてもスタックハイトを低くしたかったんや!という方は直ぐに札束を握りしめてお店にGOだ(PD-R9300定価4万1787円、SH-RC910定価6万9300円)。
SPD-SLRの先にあるもの
今回のペダルと併せてホイールも9300番台のアイテムが発売開始になった。ここまでくればDURA-ACEのモデルチェンジが近い事は皆さんお気づきの通りである。DURA-ACEはプロロードレースの現場でテストを重ねてからリリースされるのが恒例だ。という事はDURA-ACEの仕様がプロレースの現場の意向や選手のトレンドを反映させているわけである。現行の12SであるR9200が発売されたときも160mmのショートクランクや11-34Tのワイドレシオがラインナップされて、一般サイクリストに迎合したような印象もあったが、その後の結果を見るに完全にプロ選手向けに必要なものを揃えただけだった。

RD-R9250のトータルキャパシティは37なので、11-34Tが想定しているのは純正だと54-40、プロ供給用の56-42や58-44だけで、いわゆる乙女ギアは全く想定外。ショートクランクについては女性や小柄なライダーではなく、ポガチャルの躍進を見ればわかる通りである。ここまで来るとSPD-SLRの低スタックハイトが想定しているのは、ギアの選択に迷ったときにケイデンスを上げるよりトルクを掛けて踏み込むというシチュエーション。R9300新DURA-ACEのまさに足元がここから感じ取れる気がする。
という事でかなり脱線が大きかったですが、総じてPD-R9300/SPD-SLRはSPD-SLに年月をかけて馴染んだユーザーであっても違和感なく導入できる。シューズとクリートの相性という問題はあるものの、ダイナラスト2.0を採用したモデルであれば選びやすくなる可能性が高く、他メーカーのシューズも前後の位置調整の余裕を持ったシューズのリリースは追随すると思うので、トルクを掛けた時の安定感に惹かれるユーザー、特にレース志向のライダーにとっては注目するべきプロダクトだろう。方や、サイクリングで現状以上の激しいライドを求めていない方が従来のクリートとほぼ近いSPD-SLRの灰色クリートを使ってまで導入するのは低スタックハイトのメリットも享受できないのでやめた方が良いだろう。現状で使っているSPD-SLをしっかりメンテナンスして使い続ける事をお勧めしたい。
私にはSPD-SLRが合うかどうか分からない、という方向けにお試し用のクリートとペダルも用意しています。練習会に参加される場合はペダリングの様子を観察してアドバイスできる事もあると思いますので、店頭にてご相談くださいませ。
